司法書士は不動産の登記手続きの際に利用するぐらいで、あまりなじみのない存在だった。しかし、弁護士には依頼しにくい少額の民事訴訟事件や、新しい成年後見制度などで活躍の場が広がり、一般の人が司法書士を頼む機会が増えている。現行の司法書士法が施行されて50年、関係団体も知名度を高めようとPRに力を入れている。
簡易裁判所での少額訴訟の助っ人に
司法書士に費用7万円で訴状を作ってもらう
神奈川県内の男性会社員(39)は6月に転居する際、賃貸マンションの敷金32万円を返してもらえなかった。それどころか、3年弱しか住んでいないのに修繕費が41万円かかるとして差額の9万円を請求された。これに納得できず、30万円以下の金額なら簡単な手続きで請求できる少額訴訟を決意。神奈川県司法書士会に電話で相談、司法書士に費用7万円で訴状を作ってもらい、自分で簡易裁判所に提出した。審理は12月の予定だ。
判決で勝訴しても弁護士費用のほうが高くなる
「判例も紹介してくれた」
少額訴訟は本人でもできないことはない。しかし、訴状に必要な証拠などについて詳しい知識が必要で、専門家の助けがいる。と言っても弁護士に依頼すると、少額訴訟では、たとえ判決で勝訴しても弁護士費用など裁判にかかる費用の方が高くなり、引き受けてもらえない場合もある。この会社員は「一人では訴状は書けなかった。判例も紹介してくれ、納得して提訴できた」と話す。
マンション購入時の登記手続き
法的な代理人になって法廷に立つことはできない
司法書士は、登記手続きの代理や訴状の作成を行う法律専門の職能だが、弁護士とは違って法的な代理人になって法廷に立つことはできない。このため、従来はマンションを購入した際などに登記手続きを依頼する以外に、一般の人が利用する機会はあまりなかった。
多重債務者の自己破産申請の書類作成も
しかし、民事訴訟法が改正され、少額訴訟を当事者が簡単に起こすことができるようになり、そのための訴状作成など一般からの依頼が増えてきている。また、多重債務者が自己破産を申請する時の書類作成の仕事も増えた。
成年後見センター・リーガルサポートを設置
後見人になる司法書士の名簿を家庭裁判所に提出
ほかにも、日本司法書士会連合会(東京)では、認知症(痴ほう症)の高齢者などの財産管理を手助けする新たな成年後見制度が4月にスタートしたのに合わせ、後見人などを務められる人材の育成を目的に「成年後見センター・リーガルサポート」を設立。各地の支部で介護保険などの研修を積ませ、その名簿を後見人を選定する家庭裁判所に提出しており、9月末までに47人が後見人に選ばれた。
脱「登記の専門家」
こうした状況に、従来の「登記の専門家」のイメージを変えるために、神奈川県や京都府、愛知県の司法書士会などでは少額訴訟や多重債務についての無料の相談窓口を開設してPRに努めている。
身近な法律問題についてアドバイス
司法書士会連合会の斎木賢二副会長は「登記の専門家としてだけではなく、法律の範囲内で身近な日常問題についてアドバイスできる専門家集団を目指していきたい」と話している。
連合会では12月2日、東京都新宿区の司法書士会館で今後の司法書士のありかたを考えるシンポジウムを開く。